変貌する感染症(サイエンス10月号:M.W.モイヤー)
所得格差とインフラの老朽化が原因?
感染症が都市部の貧困層に広まり始めた時そこでとどまらないという現実。
都市人口の増加(過密状態)、公共交通機関の利用、旅行者の増加などにより、
アメリカ全体が混み合った病原菌流通市場の体を示している。
都市インフラの変化の一つとして、
ビルに空調を提供する巨大な冷却塔はレジオネラ症の原因となる細菌にとって理想的な繁殖場所になる(日本でもずいぶん前に24時間温泉という名前で売り出されたお風呂の水を循環させる機械が温床となり発症した病気です)。
換気の悪いビルの構造も原因となり、換気がきちんとされないと、
壁面や室内の空気のよどんだところに細菌が集中する。
水道管の老朽化により、漏水や破断による微生物汚染が増えている。
このような原因(要因)は社会的・経済的なものであり、
生物学的、医学的なものではない。
しかし社会的問題がどのようにして感染リスクを高めるかの研究はほとんど存在しない。(!)
感染症の元が貧困層にあるとしても、
ひとたび感染症が広まるとどの層も感染を免れない。
性感染症も職層の垣根など気にもとめない。
アメリカでもあらゆる層でも増えていて、アメリカのあらゆる集団で起こっている。
現在の性感染症患者数は米国市場最多である。
都市の建築物に潜む危険→香港で起こったSARSの現場となったアモイ・ガーデン。
(33階建ての高層マンションが19練林立している。)
下痢症状のある患者がそのビルの一つでトイレを使用したのち、
同じビル内の住人が同様の下痢や筋肉痛を訴え感染が発覚。
他の練でも出現し、全部で222人がSARSと診断。
そのうちの42人が死亡。
このビルの特徴としては同じビル内の浴室が垂直の配水管でつながってて、
こちらから枝分かれして各戸の水回りの設備に接続されていた。
U字ストラップで水がたまることでネズミや虫の進入、下水の臭気の混入を防いでいたが、
一部U字ストラップが水でシールドされないところがあり、
そこから患者が用足した際に汚染された便の飛沫がこのU字ストラップに到達して、
その後換気扇の使用によって汚染された飛沫が他の住戸に流入。
インフラの上水、下水、空気がどこに行くのかそしてそれらが途中で汚染されるかどうかは都市の設計次第。
部屋の換気が十分でなければ病原菌の混じった飛沫は時間とともに高濃度化する。
省エネの推進で換気をおさえる取り組みは感染症予防以外の面では賞賛すべきものではある。
都市における廃棄物管理も悩みの問題で、廃棄物のあるところには病気を媒介するネズミがいる。
ボルティモアで検査したラットの65%がレプトスピラ症に感染。(2007年の研究)
ネズミの尿を介してヒトが感染する細菌感染症。(腎不全や肺出血を引き起こす場合がある)
かえりみられない熱帯病として、都市部では貧困層にサシガメという昆虫にかまれると感染するシャーガス病(これが直接原因として毎年3~4万人の心臓疾患、心不全を発症)
脳に条虫が寄生して痙攣発作を生じる神経嚢虫症(毎年1000人入院)
ほとんどの医師は寄生虫感染症や熱帯病についての訓練を受けていない。そうした病気が広がっていることに気がついていない。
トランプ政権の2019年会計年度予算案では現行の性感染症および結核予防プログラム(HIVやウイルス肝炎のプログラムを含む)から4300万ドルが削減されている。公衆衛生準備対応プログラムからは7億400万ドル、予防接種、呼吸器疾患プログラムからは4400万ドル、新興感染症および人畜共通感染症プログラムからは6000万ドルの削減。
感染症のアウトブレイクの発生時に即座に対応する現場も予算削減に悩まされている。
A型肝炎が流行しているデトロイトでは心ある医療従事者が週に3日だけだが、
ホームレス人々に支援するセンターで弱者を守る活動を続けている。
薬を渡し、質問に答え、軽食を提供し、滞在者に最近の調子を聞く。
センターにいる人全部のニーズに対応することは難しい。
社会的弱者からリソースを奪えば、彼らの間に広がる感染症の勢いを強めてしまうことになる。