農家にとって頭の痛い野生動物による作物の被害は年々増加しています。
イノシシやシカを撃ち取りそのあとどうするかというところで、
ジビエとして扱われる分野も現れてきました。
家畜であればないこと前提で調理できるのですが、
野生には家畜や養殖では打ち消されたはずのリスクが隠れています。
今日こんなニュースが流れてきました。
宮崎大学農学部獣医学科獣医寄生虫病学の吉田彩子先生の報告です。
肺吸虫症
典型的な食品由来人獣寄生虫症で、原因食品として淡水生のカニとイノシシ肉が知られていました。
また2016年に二ホンジカの筋肉からウェステルマン肺吸虫の幼若虫体(子供)が検出されたことが報告されていました。
二ホンジカが肺吸虫の宿主(待機宿主)となり人への感染源になることがわかってきていましたが、2001~2015年に宮崎大学が診断に携わった症例274例を確認したところ、
イノシシ肉184例、
淡水生のカニ(モズク、サワガニ)が102例、
シカ肉が76例(重複あり)、
で患者さんの30%でシカ肉を取られていることがわかりました。
その中にはシカ肉しか取っていなかった患者さんが26例。
26例の方の居住地を調べたところ、
大分県、宮崎県、鹿児島県、熊本県と九州地方がおおかったのですが、
岐阜県、兵庫県、京都府でもシカ肉が原因と思われる発症がありました。
そのためこの地方(京都府以外)に生息するシカの血清を集め肺吸虫の抗体検査をおこなったそうです。
800あまりのサンプルのうち抗体陽性は2.3%(0~10.2%)で、イノシシの肺吸虫感染率は9~43%と言われていて、イノシシほどではないにしても抗体陽性のシカが存在することがわかりました。
肺吸虫抗体陽性(住み着いている)のシカが生息していても感染者が出ていない地域では、
シカ肉を生で食べる食文化、食習慣がないのではないかと推測されていました。
ちなみに肺吸虫症になるとこのような症状があります。
感染直後に、下痢、腹痛、発熱、せき、かゆみなどが現れることがあります。その後、感染症により主に肺が損傷を受けますが、他の臓器に影響が及ぶこともあります。慢性のせき、胸痛、呼吸困難などの症状が徐々に現れます。せきとともに血を吐くこともあります。
脳が感染症に侵されると、けいれん発作、言葉の使用や理解の問題、視覚障害がみられることがあります。麻痺が起こる場合もあります。
具体的な肺吸虫としては以下のものがあります。
- 肺吸虫症を引き起こすウェステルマン肺吸虫
淡水のカニやザリガニを生や加熱調理が不十分なまま、あるいは塩漬けや酢漬けにして食べたときに、一緒に未成熟な吸虫(幼虫)の入ったシストを飲み込むことで、人間が肺の吸虫感染症に感染します。この種の感染症は、極東地域で特に多くみられます。
人間がシストを飲み込むと、体内でそのシストから幼虫が出てきて、腸壁を通り抜け腹腔に入ります。さらに幼虫は横隔膜を越え、肺に侵入します。移動した先で幼虫が成虫になり、産卵します。幼虫は脳や肝臓、リンパ節、皮膚、脊髄に入り、そこで成長することもあります。しかしこれらの部位に入った場合は、虫卵が体外に排出されず、ライフサイクルは途切れます。
肺で産卵された虫卵は、せきによって引き上げられ、たんとして吐き出されるか飲み込まれて、便とともに体外に排出されます。その虫卵が淡水中に排出されると、幼虫がふ化して巻貝に摂食されます。巻貝の体内で、幼虫は泳ぐ能力をもつ形態(セルカリア)に成長します。セルカリアは感染した巻貝から放出された後、カニやザリガニに感染し、シストを形成します(メタセルカリア)。
予防:この感染症が多く発生している地域への旅行者は、予防策として、生や加熱調理が不十分なままでカニやザリガニを食べないようにします。
(MSDマニュアル家庭版より)
ジビエ:良く加熱したものを美味しくいただきましょう。